This is Tanaka


Alfa Romeo 2300 B MM (1938)

毎年、五月のイタリア半島を、世界各地から集った約300台を越える魅力的なクラシック・スポーツカーが2日と半日かけて走る“ロードレース”がミッレミリアです。

ミッレミリア(Mille Miglia)とはイタリア語で「1000マイル」、ざっと1600キロメートルのことです。その昔は、猛スピードでいっきに1000マイルの公道を駆け抜けるスピードレースだったのですが、1957年に悲惨な大事故が起こってその年を最後に中止になってしまいました。しかし、かつてのような本格的なハイスピードの耐久レースではありませんが、1982年から毎年、ふたたびミッレミリアがよみがえってきました。“復刻版ミッレミリア”ともいえるもので、それが今年も五月に始まりました。
map

ミッレミリアは今では、ごくのんびりと楽しく走るラリーふうのツーリングレースに変わってしまいましたが、しかし血が騒ぐとでもいうのでしょうか、時にはかなりのスピードを出して走るクルマもあります。

コースは、昔どおり北イタリアのミラノに近い古都・ブレッシアをスタートして南下、首都ローマに至りそこで折り返し、ふたたびブレッシアに戻ります。サンマリノ共和国やフィレンツェなど歴史豊かな古い街や田舎道を、陽気なイタリア人の歓声を浴びて駆け抜けていきます。エンジン音を轟かせながら古い石畳の道や美しい野原をクラシック・スポーツカーが走っていきます。 その風景は、見ているだけでも楽しく、うきうきしてきます。

ドライブしている人たちの表情もいいし、歓声をあげて迎える道路沿いのイタリアの人たちの表情もいいのです。小さな田舎街で、イスを持ちだして次々と走り抜けるクルマをじっと見つめているお年寄りもいました。昔、恋人と興奮しながらヌボラーニや、ファンジオ、モスなどを見ていたのかもしれません。コース沿いの学校は、どうやらすべて休講になってしまうようです。小学生は先生に引率されて見にきているのですが、興奮の渦の中にいます。フェラーリやマセラティ、赤いアルファ・ロメオなど我がイタリア車が来ると、その声援はいっそう大きくなります。もちろん、ドライバーは手を振って笑顔でそれに応えます。その雰囲気が、また実にいいのです。

撮影取材のために参加車のうしろに付いて同じコースを走っているうちに、写真も撮らずにぼくも一緒ににこにこしながら人々に手を振っていることが何度かありました。そのためなのでしょうか、撮り損ねた素晴らしい風景がたくさんありました。
あとで考えると残念な気持ちもなくはないのですが、その場面の音や匂いや笑顔がぼくの頭の中で写真よりはっきりといつまでも残しておこうと、そんな思いにさせる不思議な魅力がミッレミリアにはたくさんあります。


Mercedes SSK (1929)

ここに紹介するミッレミリアの写真は1992年5月21日~24日に写真展として開催したものをベースにしたものです。
三重宗久氏のすばらしいエッセイを読みながら、併せて写真も見ていただくことで、ミッレミリアの雰囲気を感じ取ってもらえばうれしく思います。

田中 希美男
BackNext